ヲトメ心は複雑迷路?
 ( お侍 拍手お礼の六十五 )

〜789女子高生シリーズより
 


 約束のすっぽかしは どちらかといや減った。というか、前以ての約束というの自体を滅多に取り付けなくなったんで、分母が減れば達成率も上がるという、どっかの厚生省関係筋が昔、年金基金納付率を上げるがためにやらかした裏工作みたいな理屈で“減った”感がしているだけなのかも知れないが。
(こらこら)

  そんなまで
  理解し合い把握し合っている間柄だと言っても、
  こちとら現役女子高生だけに。

 どうしても逢いたいとの強引な我儘も、半年に一度くらいしか言わないほど、古風なまでに我慢強いことと平行して。

 “いつ いきなり“逢おう”とお声がかかっても大丈夫なようにって、
  日頃からも万全にって心掛けてたのにな。”

 選りにも選って お昼休み明けという掟破りな間合いに、

  ―― 今から逢えぬか?

 なんていう、それはそれは嬉しいメールをいただいたもんだから。平八や久蔵とは、じゃあ部に行くね、バイバイと別れた直後だったにもかかわらず、一応熱心に打ち込んでいる筈な剣道の練習も、速攻で…仮病こそ使わなんだが、休ませていただいた現金さよ。大急ぎでJRに乗り込み、徒歩移動はすべて駆け足で頑張って家まで帰ると、わたわたしつつシャワーをざっと浴び。今日だけは特別に、家政婦さんに手伝ってもらって髪を乾かしながら、今時分のだけじゃない、秋冬ものを収めた分までクローゼットを目一杯 引っ掻き回したものの、

 “ダメだ〜〜〜、すっかり舞い上がっちゃってるよぉ。”

 サンドベージュのウエストカットのジャケットと、腿の半ばまでという丈のミッドブラックのミニワンピはいいとして。その下へ、七分丈のクロップパンツをついつい合わせてしまったのはどうしてだろうかと。こちらも…ストーンこそ付いてはいたが、シルエットは大人しめのミュールを履きつつ、約束した時間どおり、門のお外まで迎えに来ていただいた勘兵衛様を洋服選びなんて理由で待たせる訳にもいかぬのでと。それでも髪のセットとナチュラルメイクを玄関の姿見でチェックしてから、

 「お待たせしました。////////」

 玄関前の車寄せ、アプローチポーチから門柱までを、初々しくも焦りつつという駆け足で駆けつければ、

 「なに、着いたところだ。」

 そちらさんはスーツ姿のままだのに、運転席から余裕の所作にて腕を延ばすと、助手席のドアを開いてくれて。何なら学園の方へ迎えがてらに乗りつけてもよかったが、確かそれは校則で禁止となっていたろうからなと。あの女学園関係者ならば、ある意味 常識的必須事項だろうに、

 “…勘兵衛様vv”

 お忙しい身でありながら、そんなことまで覚えていてくださったなんて…とばかり。まずはの ささやかなジャブで、さっそく白百合さんを感動させた罪な人。

 「急なことで済まなんだな。」

 ギアの操作も、ミラーへの目配りも、ハンドルを大きく切っての方向転換も。ああもう、何で何をとっても精悍でカッコいいお人なんだろと、さっそくにもうっとりと心奪われてしまいつつ、

 「いいえ、お逢い出来るのなら…。」

 いっそ掻っ攫ってもらってもいいほどですと危うく続けかけ、さすがにそれは飲み込んだ七郎次お嬢様であり。

 『たそがれコンサートというの、確か気に入っておっただろう?』
 『はい。』

 市民参加のとある交響楽団の定期コンサートがひそかに人気だそうで、中学生時代に父上に連れられて聞きに行って、心打たれた白百合のお嬢様だったのだが。いかんせん、アマチュアによる小規模運営なため、公開演奏を開くとしても座席数の限られたそれが多く。席が少し多めだという野外コンサートでも、あっと言う間にチケットは完売。そのため、お初に聴いて以降はなかなか運ぶことが出来なんだとか。そんな話をしたのを、やはり覚えていたらしい勘兵衛様。何かしらの奇縁があってだろう、今日の夕刻からの演奏会のチケットを手に入れたと、まだ女学園にいた七郎次へ わざわざご連絡下さった。勘兵衛としては、そのチケットこそが サプライズプレゼントのつもりなのだろが、

 「〜〜〜〜〜。////////」

 同じ東京都心に住みながら、最後に逢ってから、何と半月ほども間が空いていたという、そんな愛しいお人との逢瀬こそ、驚きと嬉しいが天こ盛りになった、スペッシャルな贈り物に他ならず。グロスを塗った口許があっと言う間に素肌に戻ったほど、ドキドキと落ち着けず、口許もたわみっ放しの有り様だったりするのだが。

 「………勘兵衛様?」
 「んん?」

 平日の昼下がりとあってか、特に混んでいる道でなし、それでもこちらばかり見つめる訳にも行かない壮年殿の。例えばギア操作する大きな手に“はぅうvv”と見とれ、切れのいい動作や、力を込めてか節が浮き上がる男臭さに胸をときめかせ。ああやっぱり素敵だなぁと、愛しいお人の素晴らしさを体感で再確認していたお嬢様だったものの、

 「あのあの、お疲れではないのですか?」

 だって、毎日お忙しいからこそ、メールのお返事も下さらなかったんでしょうに。ひがみや皮肉のつもりなんかじゃあなく、全国のニュースで扱われた大きい事件以外としたローカルニュースでも、恐ろしくも残酷な、殺人だの強盗だの放火だのが、枚挙の暇がないほど報じられているのが都内だから。毎日のように何かと事件の起きる都心の警視庁がどれほど大変かは、密着24時なんてな番組をわざわざ観なくとも承知のこと。そんな中、せっかくこの午後からという休暇がとれたのなら、まずは休息せねばと思うものじゃあなかろうか。

 「あの…。」

 約束もせぬまま ただただ想うだけでいたものが、こうしてお逢い出来たのは何をおいても、とってもとっても嬉しいけれど。お体をいたわってもほしいなぁと、今になって思ってしまった七郎次お嬢様だったようであり。ほんの少し、心持ち乾いた色合いとなった陽が、街路樹のポプラの梢の間から木洩れ陽となって降り落ちる中。目映い光へふと眸を細めた横顔に見ほれつつ、そんな案じの言葉を洩らした彼女だったのへ、

 「…相も変わらず、気の回ることよの。」

 一体何を言い出すかと、目を見張った勘兵衛だったのも いっときのこと。すぐにもそんなお顔が和んでのそのまま、くすすと微笑ってしまわれる。

 「なに、誰もおらぬ部屋へと戻って、
  まだ明るいうちから布団へ倒れ込んだとて、
  そうそう眠れるものではなくってな。」

 もうちっと若いうちはそうでもなかったがと、鼻先で笑って付け足してから、

 「それよりも、だ。」

 コンサート会場となっていた市民会館前の、専用駐車場への車寄せにあたろうロータリーに入りつつ。公道ほど注意も要らぬと思ったか、お顔をすぐ隣りの連れの方へと向けて来られた壮年警部補殿。目許をほのかにたわめての微笑まれると、

 「お主がすぐ傍におってくれる方が、
  どれほど休まるか知れぬのだ。」

 「あ………。////////」

 ずるい、ずるいです勘兵衛様。そんな風に言われたら、もうもう何にも言えなくなるじゃあないですか、と。そんな切なる想いが、胸中をグルグルしながらぐんぐんと膨らみ、

 「〜〜〜〜。///////」

 見るからに真っ赤になった頬よりも、何を口走るか判らない口許を、小さな手で覆ってしまった白百合さんだったそうですが。


  ―― 勘兵衛様。
    今の言いよう、
    少なくとも同い年が相手だったら、
    間違いなくチャライなぁと思ったところでしたよ?


 もしも七郎次さんが、昔のまんまな“古女房”だったなら。このくらいはペロッと言ってたかも知れません。
(こらこら)





    〜Fine〜  11.09.10.


 *本文中ではト書きのみだった久し振りの勘七デート、
  ちゃんと書いといてあげたくなりました。
  ちなみに、勘兵衛様へ“ぽ〜っvv”となってるおシチちゃんは、
  ワンピースでルフィの言動へいちいち恥じらってた
  七武海の女帝こと、蛇姫ハンコック様を参考にしたら
  笑えるほど書きやすかったのは、ここだけの話です。
(大笑)

 *それにつけましても、
  ちょいワルとか、スィーツ男子とか草食系とか、
  男性への形容詞にも目まぐるしいブームがあるようで。
  今だと“イクメン”ですか?
  イケダンってのもなかったですか? あ、こっちは男子じゃなくて旦那か?
  メンズと“男子”は微妙に別物らしいですね。
  (古い話で恐縮ですが、
   男の子のヤマンバ系で、
   人呼んで“センターガイ”には笑かしていただきしたよ、ええ。)

  ついてく方も大変でしょうね。
  チャラ男とか言われても勘兵衛様に通じるのかなぁ。
  てらそまさんのお声で
  “君たち かぅわウィーねぇvv”なんて言われるのもなぁ…。

   ………ちょっと想像してみました。
   吹き替え外人キャラなら何とか?(う〜ん…)

  歌舞伎町や渋谷あたりの、風紀課か生活安全課所属なら、
  そういう“イマドキ”言葉に接する機会も多いのでしょうが。
  警視庁の筋金入り“捜査一課強行係”勤務じゃあなぁ。

  「シャブとか チャカとかいうのは ちゃんと知っておるぞ?」
  「勘兵衛様、それは刑事の専門用語です。」

  “しかも微妙に古いし……。”

  ヒロポンよりはマシです。(こらこら・笑)

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